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アラブ連邦MOD
＃このページはページ作者が勝手に書いたもので、MOD作者様の考えとか実際の歴史とはあまり関係ありません。
歴史2.アラブの反乱とカイロ会議 †
第一次世界大戦が始まると、聖地マッカの太守であったハシム家は一族挙げてオスマン帝国に反旗を翻した。英国の支援を受けた彼らは各地で戦い、最終的にアラビアのみならずシャーム地方（大シリア）をも解放するという成果を上げた。パリ講和会議に臨んだファイサルだったが、現実は厳しいものだった。
大戦で最も大きな犠牲を払ったフランスは中東における利権を譲るつもりはなく、サイクス・ピコ協定に基づく旧オスマン領の分割を求めた。イギリスもそれを拒むことはできなかった。
一方、ユダヤ人（の中のシオニストと呼ばれるグループ）はバルフォア宣言の遵守とパレスティナへの移住を求めていた。彼らの指導者ワイツマンと会談したファイサルは、現地の非ユダヤ人の権利を損なわないことを条件として、バルフォア宣言の受入を認めた。
1920年に行われた国際連盟会議の結果、シリアとレバノンをフランスが、パレスチナとヨルダンとイラクをイギリスが、それぞれ委任統治することになった。一方、アラブ民族会議でシリアの王冠を差し出されたファイサルは、フランスに抵抗しようとした。
すでに中東一帯が将来の大産油国となることは約束されており、アラブ人たちを敵に回すことが得策ではないと知るイギリスは必死の調停努力を行った。辛うじて武力紛争は回避され、ファイサルのアラブ軍は（住民たちに惜しまれながら）シリアを退去、中部イラクに入った。一方、彼の兄アブドゥッラーは手勢を率いて英勢力圏のヨルダン川東岸に入り、事態を見守る構えを見せた。
すべてを解決するために、1921年3月、カイロ会議が開催された。英植民地相チャーチル、植民地省入りしたロレンス、アラブを代表するファイサルとその顧問団、それにユダヤ人たちが集まり、交渉が始まった。
アブドゥッラーは会議に参加せず、アンマンに手勢を留めたままだった。会議が不首尾に終われば実力でシリアを争うというのである。フランス人は警戒を強め、実はイギリスがアラブ人を利用して全中東を支配しようとしているのではないかと不審の目を向けていた。一方、ユダヤ人たちも、いざという時に備えてパレスチナでの武装蜂起の準備を整えていたとされる。一歩間違えば、中東全体を巻き込む大反乱が起きかねない。もちろん、戦争で疲弊したイギリスにとって、そのような事態は受け入れがたいものだった。
最終的な折衝の結果は幾分かは曖昧なものだった。統一アラブ王国の即時樹立は認められなかったものの、イラク・ヨルダン・シリア・レバノン・パレスチナの各地域は「自立能力を持つまで」の間、委任統治が継続されることになった。これはアラブ側にとって失望を誘うものだったが、受任国による保護という条件付きではあっても、各地に政府が組織され、将来のアラブ連邦形成を認める文言が含まれたのは大きな成果だった。
また、ユダヤ人国家の樹立も認められなかったが、「現地アラブ人の権利を侵害しない」条件での移住と入植は認められ、そのコントロールはイギリス総督府が行うこととなった（このためユダヤ人は無主の地であった砂漠などの条件の悪い土地で開拓を行うことになった。ユダヤ資本による投資によって灌漑施設が建設されたことで、これらの土地も優れた農地となった）。将来的にはユダヤ人を代表する自治政府を組織し、委任統治終了後はアラブ連邦としての統合下におくこととした。
さらにユダヤ人と共存を条件としてヨルダン・パレスチナ地域の首府はエルサレムと定められ、この地にはアブドゥッラーが封じられることとなった。ここにハシム家はイスラームの三大聖地（マッカ、マディーナ、エルサレム）を掌握することとなった。
諸勢力が割拠するアラビア半島もアラブ連邦の土地と定められ、現在はイギリス保護下にあるクウェートや休戦オマーン、アデン保護領やハドラマウト保護領も「将来的には」アラブ連邦に帰属するものとされた。
一見するとイギリスが譲る部分が大きかったが、帝国の生命線であるインドへの道は確保されたし、スエズという要石とエジプトの安全を買えたことも成果となった。幾分かの緊張をはらみつつもシオニストたちとの約束も果たせた。また、秘密裏にアラブ連邦内での石油開発については独占的な権益を手に入れることにも成功した。少なくとも大英帝国にとっては、危機を脱したのだ。
フサインの死とアラビア統一戦争 †
こうしてカイロ会議は終わった。
王国となったイラクを支配することになったファイサルは、首都をアッバース朝の都でもあったバグダードに置くこととした。将来的なアラブ連邦全体の首都としてはダマスカスの方が相応しいと考えていた節も見られるが、ともかくも、一刻も早く国作りを軌道に乗せ、アラブ統一を果たせるだけの器を証明せねばならなかった。
だが、連邦には大きく二つの地域問題があった。北のクルド人と南のラシード候国である。
クルド人はイラク北部の山岳地帯に住み、クルディスタンの地はイラクの他地域とは大きく地理的にも文化的にも異なっていた。ロレンスはこの地域の特殊性に鑑み、北部イラクを分離して英国の直轄統治に置くべきと主張したが、容れられなかった。それでもファイサルはひとまず融和的な方針でこの地に臨み、一応の平安が保たれていた。
一方、アラビア半島の中央部、シャンマル高原とネジド地方を支配するラシード候国の存在はより難しい問題だった。紅海に面して開けたヒジャーズ地方と、内陸のネジドとは、伝統的な対立関係にあった。また、かつてアラビア半島を席巻したワッハーブ王国（サウード候国）はネジドを根拠地としていたが、オスマン帝国とエジプト太守によって、その野望を挫かれたという歴史もあった。
ワッハーブ王国の衰退後にネジドの主となったのはラシード候国だった。サウド家の内紛に乗じてアラビア半島内陸部を制したラシード候国は、砂漠の諸部族を味方としており、彼らはしばしば周辺地域で掠奪を行っていた。これは半島に割拠する群小諸侯には荷が重い相手だった。
第一次世界大戦中は英国の働きかけもあってラシード候国は中立を守ったが、オスマン軍が撤退した後のハサー地方（半島東部、ペルシャ湾岸地域）をも手中に収め、アラビア半島の一大勢力となっていた。
英国はラシード候国がカイロ会議に参加することを希望していたが、彼らはハシム家の支配を認めさせられる場になると見てこれを拒んだ。すでにアメリカ資本の手によってハサー地方で油田が発見されていたため、彼らの力が早晩増大するのは約束されていた。
カイロ会議後、ファイサルは（ラシード候国以外の）アラブ諸国の代表と相次いで会談し、「近い将来の」連邦参加を取り付けていった。もちろんこれは単なる口約束、友好の表明といったものに過ぎなかった。この時点ではハシム家とラシード家のいずれが将来のアラビア半島の支配者となるかは分からず、いずれの勢力も両者を天秤にかけていた。
ファイサルはイラクに戻ると、将来のラシード家との決戦に備えて国家と軍の強化に乗り出した。英国からの協力の約束は内々には取り付けてはいたものの、アラブ世界の支配者の座は可能な限り独力で勝ち取らねばならないはずだった。一方のラシード家も、遊牧民への多数派工作を強化し、将来の戦いに備えていた。
均衡は意外なことで崩れた。1924年3月3日、トルコ共和国はカリフ制度の廃止を宣言し、カリフとその一族を国外追放した。これを見たヒジャーズ国王フサインは、突如として自らがカリフであると宣言した。
確かにハシム家は血筋からこれを名乗る資格はあったかもしれないし、名目的には中東一帯に支配を及ぼしてはいた。が、自身が一地方領主に過ぎないフサインがイスラーム共同体の擁護者を名乗るというのは、誇大妄想に類する行為であった。驚いた英国やファイサル、アブドゥッラー、それにイスラム法学者らはこれを撤回するように求めたが、フサインは老いの一徹そのものの頑固さでこれをはね除け、さらにカリフの地位を理由として巡礼や礼拝に課税を行おうとした。これは政治的にも、シャリーア（イスラム法）的にもどうかと思われる行いであり、ヒジャーズ地方の人心はフサインから一気に離れた。
これを見たラシード家は、ついにアラビア半島の覇権を握るときが来たと考えた。偽りのカリフを討つべしとの檄が飛び、莫大な報酬の約束のもと、剽悍な砂漠の民が彼らの幕下に続々と馳せ参じた。マッカで父王の説得に当たっていたファイサルとアブドゥッラーも、ハシム家に友好的な部族から伝えられる半島内部の絶望的な状況に、戦争が避けられないことを理解した。彼らは戦争準備のために急いで帰国の途に就いた。ここまで来れば、カリフ位云々は口実であり、今更撤回して手遅れである。ラシード家の攻撃を実力で粉砕しないかぎり未来はないのだ。
だが、ラシード候国側の遊牧民は機先を制し、各地の鉄道やハシム家に与する部族を襲撃してきた。このためハシム家側の動員は容易には進まなかった。確かに英国からの援助があり、敵の手の届かぬメソポタミア一帯とヨルダン川流域という根拠地を持つハシム家は、最終的には敵を圧倒できるはずだった。だが、砂漠は未だ、驍悍を持ってなる遊牧民たちの支配する世界だった。
ハシム家にとって、さらなる凶報が続いた。1924年10月3日、マッカがラシード候国の遠征軍によって奇襲占領され、混乱の中フサイン王も殺害されたのだ。フサインの死の状況は不明な点も多いが、掠奪中の遊牧民によって殺害されたとされる。
もはや猶予はならなかった。まず距離的に近いアブドゥッラーの軍がヒジャーズ地方に入り、港湾都市ジェッダと聖地マディーナの守りを固める。遊牧民たちの襲撃は続いたが、紅海からの補給線が維持されているため、これらの拠点を落とすのは容易でないのは明らかだった。
一方、ファイサルは大軍を率いてクウェート市に入り、ハサー地方を窺う構えを見せた。アラビア半島の沿岸部の大半は英国の保護下にあり、ジェッダ港を落とせてない今、ペルシャ湾岸地域だけがラシード候国と外部との接点だった。武器弾薬の補充のために絶対に手放せない地域であり、ラシード候国は二正面作戦の愚を知りながらもこの東部戦線に大軍を集結させた。
時は来た。密かにクウェートを離れたファイサルは、イラクに戻る。そしてアラブの反乱を共に戦った士官たちと、精鋭のベドウィンだけからなる部隊を自ら率い、長駆ハーイル市を陥れたのである。続いて別働隊によってリヤド市も包囲され間もなく陥落、ラシード家の根拠地はあっけなくハシム家の手に落ちたのである。ラシード軍は総崩れとなった。
マッカ陥落の報復としてファイサルはハーイルを破壊した。だがそれ以上の破壊を放棄したファイサルは、降伏した諸部族をリヤドに集め、服従の誓いを受けた。のみならず、英国保護下にあった諸首長らも戦勝祝いという名目のもとに、ファイサルに臣従を表明するための使者を続々と送ってきた。
こうして戦争自体は終わったが、戦争の原因となった問題が未解決だった。ファイサルは終戦処理の一貫として、オスマン朝最後のカリフのアブデュルメジト2世を国内に呼び寄せた。そして正式にカリフ位の禅譲を要請したのである。ファイサル自身はカリフ位にさしたる魅力を持っていなかったとされるが、もはやそれを正面切って認めることはできない状態だった。たとえ建前に過ぎなかったとしても、カリフ位を認めないことは、この戦争で流された血の価値を認めないことになってしまう。ウラマー（イスラム法学者）が多数動員され、ハシム家によるカリフ位継承の正統性に関する疑問点が徹底的に洗い出され、確認され、解決された。
1926年1月8日、ついにマッカにおいてカリフ即位式典が行われた。スンナ派の国と地域からは代表団が集められ、平和の到来に歓喜する群衆と共に新たなカリフの誕生を祝ったのである...。
実際の歴史 †
概略 †
第一次大戦後のアラブ世界には大きく3つの中心がありました。
唯一の「自由な」アラブ人の国家はサウジアラビアで、「砂漠の豹」イブン・サウード（アブドゥルアジズ王）が1932年に建設しました。イブン・サウードは割と講談を地でいくような凄い経歴の持ち主で、父とともにクウェートで亡命生活を送った後、わずかの手勢を率いて砂漠を越えてリヤドを占領、その後の戦争にも打ち勝ち、最終的にワッハーブ王国復活という大業を達成しました。
次に、ハシム家の支配するイラクとヨルダンという二つの王国がありました。ハシム家は預言者ムハンマドの血筋であり、メッカの太守を務める名家でした。オスマン帝国の影響下にあった彼らは、イギリスの援助を受けて戦います。が、イギリスは独立を与えるとの約束を破り、中東をフランスと分割してしまいます。太守フサインはサウド家の攻撃によって聖地を含む本拠地ヒジャーズを失い失意のうちに死去。イギリスの委任統治の下、フサインの次男アブドゥッラーはトランスヨルダンの支配者に、三男ファイサルはイラク王となりました。
最後はエジプトで、オスマン帝国から独立したエジプト太守、ムハンマド・アリーの開いた王朝が支配していました。イギリスの支配にもかかわらずカイロはイスラム世界の思想・文化的中心であり、アラブのリーダーを自認するサウジアラビア王国も、こと文化という点ではカイロに一歩も二歩も劣る地位にありました（と満鉄調査部の出した資料本に書いてありました）。
ハシム家 †
ハシム家のフサイン・イブン・アリーは聖地メッカ（マッカ）の太守（アミール）でした。ハシム家は第四代正統カリフのアリーと、預言者の娘ファーティマの間の長男、ハサンの後裔と伝えられる名門です。
オスマン帝国の保護下にあったフサインは、第一次世界大戦を契機にイギリスと手を組んで全アラブの王となるという野望を抱きます。在エジプトのイギリス高等弁務官、マクマホンは対トルコ戦への協力条件として、戦後のアラブの独立承認を約束しました。ですが、イギリスは実は、サイクス・ピコ協定という形で英仏は戦後の中東分割をも約していました。
ともかく、フサインの息子たちは「アラビアのロレンス」こと英軍将校T.E.ロレンスとともに戦い、大戦末期の1918年9月にダマスカスへの入城を果たします。名実ともにアラブのリーダーとなったハシム家は、ヴェルサイユ講和会議（パリ講和会議）にフサインの息子ファイサルらを送り込みます*1。が、国際社会の現実は厳しいものでした。ロレンスらの努力にもかかわらず大アラブ王国建設の野望は潰え、ヨルダン川流域やイラクはイギリスの支配下に、シリア・レバノンはフランス支配下とされます。
ファイサル・イブン・フサインとイラク †
フサインの三男ファイサルはアラブ反乱軍を率いて戦うと共に、アラブを代表する政治指導者でもありました。
1920年にファイサルはシリア王に推戴されます。が、シリア（レバノンも）はフランスの勢力圏であったため、ファイサルはフランス軍の手によって追放されます。イギリスは彼を委任統治領イラクの王としました。1932年に委任統治は終了し、イラク王国は一応の独立を果たします。
1933年、イラクでアッシリア人の反乱が起き、これは鎮圧されますがファイサルはその後まもなく病死し、王位は弱冠21歳の長男、ガージー（Ghazi I ibn Faysal、イブン・ファイサル・ガジ1世）が受け継ぎます。国内ではシーア派やクルド人の反乱、クーデターや暗殺といった事態が横行し、同時期の日本もかくという混乱が続きます。ガージー自身はアラブ民族主義の信奉者で、したがって民族概念を鼓舞するナチスに親近感を持っていたとされます。いずれにせよガージーは1939年に事故死し（親英派による暗殺も噂されました）、イラク王位は幼少の息子ファイサル（Faysal II ibn Ghazi、イブン・ガジ・ファイサル2世）に受け継がれました。叔父のアブドゥル・イラーフ（Amir al Illah、アミール・アル・イラー）が摂政となり、王権を代行します。
アブドゥッラー・イブン・フサインとヨルダン †
フサインの次男アブドゥッラーもアラブの反乱に参加し、戦った一人です。
戦後、フランス軍がファイサルをシリア王位から逐ったとき、アブドゥッラーはヒジャーズ王国から手勢を率いて遠征、シリアを攻撃しようとしました。が、そんなことになれば（ハシム家の後援者たる）英国とフランスの衝突に発展しかねません。そのような事態を望まぬ英国は「説得」に乗りだし、ファイサルにはイラクが、アブドゥッラーにはヨルダン川東岸が、それぞれ約束されました。1923年5月、アブドゥッラー（H・M・アブドゥッラー1世）を首長（アミール）とするトランスヨルダン首長国が成立し、1946年に正式に独立しました。
アブドゥッラーはおそらくハシム家でもっとも西洋の力を熟知した人間であり、アラブの大義よりも実利を重んじて極めて現実主義的な外交を展開します。人工国家ヨルダンが今日まで存在しているのは、多分にその政治的遺産と言えるでしょう（彼の孫、フセイン国王のダイハードっぷりも凄いんですが、それはまた別のお話）。
フサインとアリーとヒジャーズ †
第一次世界大戦中の1916年にメッカ太守フサイン・イブン・アリーはオスマン帝国から独立、ヒジャーズ王国を建てた。フサインは全アラブの王となるつもりだったが、現実には中東は英仏両国によって分割され、アラビア半島西岸の一地方の支配者に過ぎない状態だった。
1924年にトルコ共和国がカリフ制度を廃止すると、フサインはカリフを称した。カリフは名目上は全イスラームの（現実にはスンニ派の）代表とも言うべき地位であり、単なる一領主に過ぎぬフサインのこの行動は客観的に見て「身の程知らず」と言うほかないものだった。
一方、1902年にリヤドを奪還したイブン・サウードは着々と勢力を伸ばし、ネジド（アラビア半島中央部）に一大勢力を築いていた。戦後、フサインへの英国からの支援は打ち切られていたが、さらにカリフ宣言はフサインの声望をさらに下げていた。これを見たイブン・サウードはついにヒジャーズへの攻撃を開始、フサインは王位を長男アリーに譲り亡命する。が、イブン・サウードは手を緩めず、1925年12月にヒジャーズを完全征服する。1931年、イブン・サウードは王となり、1932年にサウジアラビア王国（サウド家のアラビア）の建国を宣言した。
フサインは亡命先のアンマンで1931年に亡くなっている（享年77歳）。長男アリーは亡命先のバグダッドで1935年に亡くなっている（享年56歳）。
なお、アリーの息子のアブドゥル・イラーフは、従兄弟のイラク国王ガージーの死後、イラク王国の摂政となっている。
「サウド家のアラビア」 †
アラビア半島はイスラーム発祥の地であったが、半島中央部は不毛の大地にオアシス都市が点在する土地であり、統一的な政権は存在しなかった。砂漠を旅する遊牧民たちは何千年前かと同じように、牧畜と交易によって生計を立て、場合によっては掠奪なども行っていた。
オリエントとヨーロッパの両方に足をかけるイスラム世界最強国家、オスマン帝国の支配も部分的にしか及んでいなかった。ゲーム的な言い方をすると、占領と維持に必要なコストが大きく、領地化することで得られる収入を上回っていたのである。単純に言うと、掠奪切り取り思いのままの遊牧民たちは、帝国軍が現れたら砂漠の中に逃れ、いなくなれば戻ってくるという図式である。
だが、18世紀、半島中央部で始まったワッハーブ運動（サラフィー運動）は純粋な信仰に立ち戻ることを求め、これと手を携えたサウド家は急速に力を拡大、半島を統一する勢いだった。
「未開の砂漠の中で、新しい宗教的な主張を伴った勢力が出現する」という現象を放置するとどうなるかはムスリムなら誰でも知っていることである。オスマン帝国はエジプト太守（ワジール）、ムハンマド・アリー（在1805年〜1848年）に半島の平定を命じた。
エジプトの近代化を進めるムハンマド・アリーの育てた精鋭軍は半島内部に侵攻、ワッハーブ王国軍を粉砕してサウド家の根拠地ディルーヤを破壊、サウド家の主立ったメンバーを殺害すると、「領地化することで得られる収入の低い地域」からは早々に撤退した（収入の得られるヒジャーズなどにはオスマンの影響が残った）。
撤退後、サウド家の生き残りの一人が新たにリヤドを根拠地としてワッハーブ王国の再興に成功するが、オスマン帝国は半島北部で勢力を伸ばしていたラシード家に援助を行い、サウド家を圧迫。内紛もあって、19世紀の終わり頃にはワッハーブ王国はリヤドのみを領有する弱小勢力となっていた。
後の建国王イブン・サウード（Abdul Aziz al Saud、アブドゥル・アジズ・アル・サウド）は父と共にリヤドを逃れ、砂漠地帯に潜伏した後、クウェート首長の保護を受ける身となった。野心満々のイブン・サウードは1902年、わずか40人の仲間と共にリヤドを奇襲占領した。続くラシード家とオスマン帝国との戦いにも勝利し、半島内部とペルシャ湾岸地域を掌握する。
クウェートでの亡命生活の経験から英国の力を知るサウードは、英国を代表するパーシー・コックス（ヨルダン閣僚の556006、556007）と交渉し、オスマンから独立した勢力であることを認めさせた。
第一次世界大戦の後、1921年にサウードは宿敵ラシード候国の打倒に成功する。
一方の雄ヒジャーズ王国は、英国との関係が悪化して援助を失っていた。さらにヒジャーズ王フサインが1924年にカリフ位を称して人々の反撥を招いたこともサウド家にとっての追い風だった。サウードは開戦を決意し、1年あまりの戦いの後、ヒジャーズは屈した。サウードがヒジャーズ王位に就き、従来のネジド地方に加えた同君連合の形で半島主要部の統一を果たした。
1932年には正式な国号をサウジアラビア王国と改め、名実共にサウド家の支配する統一王国となった。新たな王国の統一を維持するためにサウードが取った方法は様々だった。遊牧民を定住させるという試みは従来から行われており、祖先と同じくワッハーブ運動による信仰の強調も有力な手段だった。また、遊牧民の社会は部族に基づく社会であったため、サウードは征服した部族からはほぼ毎回新しい妃を迎えるということも行った。また、一方では宗教的な反撥を押し切ってラジオや電話といった新しい文明の産物の導入にも意を尽くした。
王国の中核であるネジド地方はナツメヤシ以外に何の資源も持たぬ貧しい地域であり、ヒジャーズ地方で得られる巡礼税以外にサウド王に有力な財源はなかったが、王国東部で米国資本（ソーカル）の手によって石油が発見されると状況は変化した。不毛な砂漠の大地の地下には、世界最大の油田が眠っていたのである。
エジプトとムハンマド・アリー朝 †
歴史上のほとんどの期間を通じて先進地域であったエジプトは、バグダードがモンゴル人によって破壊された後、イスラーム世界の中心となっていた。16世紀のオスマン帝国による征服後も、マムルークと呼ばれた特殊な兵士階層が支配する社会はそのまま維持されていた。
状況に変化が起きたのは18世紀末、フランス革命が起きてからである。なぜだかボナパルトとかいう名前の将軍に率いられたフランス軍が、エジプトに遠征して来るという怪現象が起きたのだ。対抗してオスマン帝国が送り込んだ援軍の中に、メフメト・アリ（ムハンマド・アリー）という名の一人の指揮官がいた。
戦いの中で頭角を現したアリは昇進してゆき、フランス軍撤退後は一目置かれる有力者となっていた。エジプトの支配を巡る争いが起こると、アリはオスマン帝国から派遣された総督と在地のマムルークたちのいずれも撃破し、1805年、エジプト総督となる。オスマン帝国もアリーをパシャとした上で総督就任を認めた。アリーはさらにイギリスやマムルークたちと戦ってこれを破り、様々な改革を強行（マムルークを皆殺しにするなど）してエジプトの近代化を推し進めた。
その頃アラビア半島で勢力を伸ばしていたワッハーブ王国への出兵を命じられたアリーは、息子イブラヒムの率いる軍を送り込んでこれを瓦解させている。さらにアリーはシリアの支配を求めて二度にわたって宗主国オスマン帝国と戦い、エジプト総督位の世襲を認めさせ、事実上エジプトの独立を果たした。ムハンマド・アリー朝である。だが、列強の介入によってエジプトは圧迫を受け、シリアやアラビア半島といった地域の放棄や関税自主権の放棄などを強要されたことで、エジプトの拡大は一旦は挫折することになる。
エジプトは事実上の独立を果たし、ナイル流域での綿花の生産から収入は増大した。だが一方では典型的な商業作物依存のモノカルチャー化が進み、国際市場の変動に極めて弱い構造となっていった。さらにスエズ運河でエジプトの重要性が増したことも逆風となった。
エジプト財政は1876年に破綻し、列強による事実上の支配下に置かれることになる。こうした中でエジプトでは民族意識が高まり、植民地支配に対する反乱がしばしば勃発することになる。西洋の優位に対する、アラブもしくはイスラームの覚醒はエジプトで始まったと言えるし、その後も続いていくことになる。
とまれ第一次世界大戦が始まるとイギリスはエジプトを正式に保護国としてオスマン帝国の宗主権から解放し、さらに戦後の1922年にエジプト王国を名目的とはいえ、独立させたのである。
写真はこちら。ロレンスや後の首相ヌリサイドらと一緒です。
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